文:3年 松下弥琴

訪問日時:2023/06/19(月)13:00-14:40

初日の最初に訪問した特別養護老人ホーム梅の香では、施設長の鹿山奈美様より、震災発生当時からの経過や、現在抱える問題とそれに対する取り組みについてのお話を伺い、その後施設内を見学させていただきました。

梅の香は、福島第一原発から20㎞圏内の小高区に位置し、原発事故発生当時、警戒区域として避難指示を受けました。平成28年1月に避難指示が解除されたことを受け、ようやく修繕工事が始まり、平成30年に一部再開となりました。

地震発生当時、津波による避難指示が出され、梅の香は施設裏手の小高神社に、その後浮舟会館に避難しました。一般の避難者もいる会館では利用者に負担がかかると判断し、翌日には施設に戻ったそうです。その後原発事故が発生し、避難指示を受けましたが、この時、南相馬市が避難指示なし、緊急避難準備区域、警戒区域の3つに分断されてしまったため、行政の対応に混乱が生じました。ニュース番組での報道をきっかけに、横浜市の施設から利用者受け入れの申し出があり、利用者229名を連れ、10時間以上かけて避難しました。

7年の休止を経て再開した梅の香は現在様々な問題を抱えています。避難指示の解除までに相当の時間がかかったことにより、避難先での新生活を確立した人も多く、働き盛りや子育て世帯の帰還者が少なく、働き手が不足しています。帰還者のほとんどが高齢者で、想定以上に高齢化が進んだことにより、入所待機者は200人近くにのぼっています。また、被災地住民を対象とする助成金の期限も近く、介護サービスの利用控えも進む恐れがあるそうです。これらの問題に対し、外国人の積極雇用、マンツーマンのOJT方式での人材育成、リフトやカメラ付きセンサーの導入による業務の効率化等の対策を行っています。また、震災の教訓から、安全な避難方法を確立し、非常時のための自家発電機等を導入しました。

鹿山施設長のお話を聞き、報道で目にした被災地の状況と、実際の状況とにはギャップがあり、我々の想像もつかないような困難が多くあったのだということを知りました。特に、少しの環境の変化が命にかかわる場合もある高齢者さえも、停電で暖房の利かない室内で寒さに耐えながら過ごし、10時間以上観光バス等で移動することを余儀なくされました。避難後には体調を崩してしまったり、床ずれをおこしてしまったりしたという状況に大変心が痛むとともに、行政の面から、あらゆる状況を想定した適切な避難計画を策定し、支援を行う必要があるのではないかと感じました。また、訪問を通して印象的だったのは、鹿山施設長をはじめとする職員の皆様のパワフルで真摯な姿勢でした。震災当時、ご自身にも小さなお子様がいた中で、利用者を守るために出勤し、避難先へも付き添うことには相当の覚悟が必要だったと考えます。現在、様々な問題を抱える中でも、できることから取り組み、利用者と明るく笑顔でかかわる姿はとても素敵だと感じました。梅の香の抱える問題は、被災地特有の要因によるものである一方で、少子高齢化の加速する日本全体が直面する問題であるとも感じ、梅の香の取り組みは、地方創成や介護業界の活性化のためのヒントになりうると感じました。

今回ご協力してくださった、鹿山施設長をはじめ、梅の香の職員の皆様に心より感謝申し上げます。貴重なお話をありがとうございました。